本書は、二十代前半の頃、八谷氏から賜ったものです。
合掌。
金色の詩 (ネルヴァル著 齋藤磯雄訳)
ネルヴァル著
Gérard de Nerval
Vers Dores
Eh quoi! tout est sensible.
Pythagore
Homme! libre penseur! te crois-tu seul pensant
Dans ce monde où la vie éclate en toute chose?
Des forces que tu tiens ta liberté dispose,
Mais de tous tes conseils l'univers est absent.
Respecte dans la bête un esprit agissant:
Chaque fleur est une âme à la Nature éclose;
Un mystère d'amour dans le métal repose;
"Tout est sensible!" Et tout sur ton être est puissant.
Crains, dans le mur aveugle, un regard qui t'épie:
A la matière même un verbe est attaché...
Ne la fais pas servir à quelque usage impie!
Souvent dans l'être obscur habite un Dieu caché;
Et comme un oeil naissant couvert par ses paupières,
Un pur esprit s'accroît sous l'écorce des pierres!
齋藤磯雄訳
金色の詩
何事ぞや、萬象、知覺を具えたり。
ピタゴラス。
無頼の思索者、人間よ、なべてに生命漲れる
この世にありて、汝のみひとり思ふ、と信ぜるや。
心のままになし得るは汝の有てる力のみ、
而して汝の意向に、宇宙は、絶えて耳藉さず。
獸の裡にうごめける奇しき靈を重んぜよ。
ひとつひとつの花はみな、大地に咲ける魂なり。
をりふし戀の祕めごとは金屬にこそ憩ふなれ。
≪萬象、知覺を具へたり。≫萬象、汝に威を揮ふ。
怖れよ、盲目の壁の中、汝を窺ふ眼差を。
物質にすら、幽玄の「言」は、ひしと纏ひつく、......
されば、これをば涜れたる用途に當つること勿れ。
漠たるものに、時あつて、見えざる神は住み給ふ。
而して瞼に蔽はれて生れつつある眼のごとく、
石の外皮の蔭にして至醇の靈の育つあり。
補遺
ルビを打てないので、特異な読みをする箇所は、括弧内に読み仮名を記し、再掲いたします。
金色の詩
何事ぞや、萬象(ものみな)、知覺を具(そな)えたり。
ピタゴラス。
無頼の思索者、人間よ、なべてに生命(いのち)漲れる
この世にありて、汝のみひとり思ふ、と信ぜるや。
心のままになし得るは汝の有(も)てる力のみ、
而して汝の意向(もくろみ)に、宇宙は、絶えて耳藉(か)さず。
獸(けもの)の裡(うち)にうごめける奇(くす)しき靈を重んぜよ。
ひとつひとつの花はみな、大地に咲ける魂なり。
をりふし戀の祕めごとは金屬にこそ憩ふなれ。
≪萬象(ものみな)、知覺を具(そな)へたり。≫萬象(ものみな)、汝に威を揮(ふる)ふ。
怖れよ、盲目(めしひ)の壁の中、汝を窺(うかが)ふ眼差を。
物質(もの)にすら、幽玄の「言(ことば)」は、ひしと纏(まと)ひつく、......
されば、これをば涜(けが)れたる用途に當(あ)つること勿れ。
漠たるものに、時あつて、見えざる神は住み給ふ。
而して瞼に蔽はれて生れつつある眼のごとく、
石の外皮の蔭(かげ)にして至醇の靈の育つあり。
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